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『奇景』 exhibition view @Street Gallery

「現代の畸の絵師たれ」

 三瀬夏之介の描き続ける最近の大画面には、「奇景」というタイトルがついている。その言葉どおりに、噴火している山があると思えば、高層ビルの都市風景があり、はたまた大仏や五重塔、UFO、大魔神が描かれていたりする。富士山が幾重にも連なって描かれていると思えば、甍の家並みや長く大きな木橋が描きこまれ、原爆のキノコ雲が見えたりする日本の絵もあった。確かに奇異なる景色であり、異貌の絵空事でありながら、画面の長大さも伴って、現代の絵巻というべき強いインパクトを伴って見る者に迫ってくる。そんな三瀬夏之介の絵画表現に対して、私は現代の畸の思想ともいうべきものを見取ってきた。畸は奇、異と同意であり、伴蒿蹊の「近世畸人伝」を彩る池大雅や、大典和尚、あの若冲らも連なる京都芸苑の中心にいた売茶翁らをあげれば、おおよそ想像はできよう。

 奈良に生まれた三瀬は、京都芸大に進み、日本画を専攻して大学院を修了、現在は奈良に戻り、美術系の高校で教えながら、制作を続ける。日本画という言語が、西洋絵画に対する日本の絵画として明治以降、制度的につくられ使われてきたことが明らかにされたあたりから、近・現代の、いわゆる「日本画」ではない日本の絵画表現の動向や、その創作の地平に注目する企画展も多く開催されるようになってきた。そうした状況のなかで三瀬は、新進気鋭の作家として、とみに脚光を浴びている。聡明な知と眼の人であり、同時に描写の力量の手の人である三瀬は、そうした「日本画」にまつわる近年の論議を勇躍と超えて、自ら選び取った和紙と墨という日本の絵画的造形言語の画材をエネルギッシュに駆使しつつ、今という閉塞的で虚無的、やるせないまでの時代の空気を、炸裂する希望の爆風で吹き飛ばしたいと願っているかのようだ。

奈良の風景をみつめるまなざしは、奇想天外ともいえる無限連鎖の絵巻として展開する。歴史も現在もSF的未来も、はたまた人工と自然、現実と仮想、暴力と祈り、日常と非日常、さまざまな対立的要素も織り込んだ、奇景、畸の絵物語として続くのだ。大絵巻が、二段重ねとなって、絵が絵に映り込む構成の新作個展は、がけの上で、その二段の大絵巻をみつめる画中の人物の姿もあって、展開はますます奔放自由になっている。

墨の線描の生き生きとした冴えとともに、和紙に墨、金箔、錆などを使って描く物質性も加わって、三瀬の画面は描くという肉体的行為の身体感覚や息づかいを伝える。現実と仮想が混沌として肥大化していく現代にあって、時とともに増殖的に延び続いていく絵巻は、構想的な絵図の確かな韻律を奏でる。現代の畸の絵師として大きく伸びてほしいと切に願う。

太田垣實(美術ジャーナリスト)

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